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岐阜地方裁判所大垣支部 昭和32年(わ)73号 判決

被告人 野原勝郎

主文

被告人を禁錮八月に処する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は昭和三十二年二月頃より同年五月五日まで株式会社揖斐自動車修理工場(揖斐郡揖斐川町三輪百四十九番地の一所在)に雇われ、自動車修理工として各種自動車修理の業務に従事していた外、自動三輪車の運転免許を有しときどき自己の修理した普通貨物自動車の試運転をする等自動車運転の業務を行つていたものであるところ

第一、(1)普通貨物自動車の運転免許を受けず運転技術も未熟であるのに、昭和三十二年五月五日午後五時四十分頃自己の修理した久保田遼陽(揖斐郡養基村大字沓井八十五番地の三)所有の「岐一す〇一四三号普通貨物自動車」を試運転するため、同自動車を運転し前記修理工場前を出発し名鉄揖斐線本揖斐駅前に出て、上新町を経て揖斐県事務所前に至り、同所より引返して下新町のアスハルト舗装道路に出て東方に向つて進行したが、同所は交通頻繁のため自動車の最高速度は時速三十五粁に制限されており、附近に十字路があり、かつ当時雨上りのため道路が湿潤していたので、かような場合は自動車運転者としてはこれ等の状況を考慮し、所定の制限速度を厳守するはもとより、深甚な注意を払いつつ進行し、危険を予知したならば直ちに急停車又は避譲できるよう徐行することを要する等危害の予防に努めなければならない業務上の注意義務があるにもかかわらず試運転の興味にかられてこれを怠り右制限速度を超えた時速約五十粁ぐらいで進行した結果同日午後五時五十分頃揖斐川町三輪八百六番地の三、尾内恒樹方前の十字路附近にさしかかつた際、進路の左方町道を自転車に乗つて南進し右十字路に差しかかつた者をその直前で認めたので急遽これを避けようとして右方に把手を執り急制動したが路面が湿潤していたので制動がきかず滑走して斜進したのに狼ばいして前方注視を怠り左方に転把しなかつたため前記尾内恒樹方前道路に設けてあつた祭礼の幟立用の棒杭に衝突してこれを破壊し、その東隣の岡田龍雄方前に居合せた同人(当時三十二才)その妻岡田みな(当時二十九才)その長男岡田泰英(当時五才)、高橋いちの(当時四十才=同町三輪八百五番地)、高橋ゆき(当時五十八才=同町三輪千五十六番地)等を自動車で跳飛ばして右岡田龍雄と高橋ゆきにそれぞれ頭蓋底骨折の傷害を与え、同傷害に因り岡田龍雄を同月七日正午頃、高橋ゆきを同月十一日午前六時五十分頃いずれも揖斐病院において死亡せしめ、又右高橋いちのの右側背部、左足関節部、右側骨盤部に全治まで約二十四日間を要する打撲傷を負わせ、かつ右岡田龍雄の自転車一台と同人家の表戸を破壊した上急に左方に転把するとともに急停車の措置を執るため靴でブレーキを踏んだが、その靴が滑つてアクセルを踏んだため反つて自動車の速度が増し、方向を直さずそのまま左斜めに進行したため前記岡田龍雄方左筋向にあたる同町三輪八百二十一番地小川春二三及びその東隣の中村賢三方に突入させ両家の表側の柱や戸等を破壊し右小川春二三方に居合せた大西恵美子(当時三十二才=同町三輪九百十五番地)を右柱や戸の下敷にさせ同女の右大腿部、両下腿部、右顏面部、背部等に全治まで約四十八日間を要する打撲傷を負わせ、

(2)前記の如く前記日時場所において法令に定められた運転免許の資格を有しないで普通貨物自動車岐一す〇一四三号を運転し以つて無謀な操縦をし

第二、前記第一掲記事故をひき起し、前記の如く岡田龍雄外三名に傷害を与えた外小川春二三、中村賢三等の住宅を損壊したにもかかわらずその儘現場より逃走し、因つて直ちに被害者の救護又は道路における危険防止その他交通の安全を図るため必要な措置を講ぜず、かつ所轄警察署に報告してその指示を受ける等法令に定める必要な措置を講じなかつた

ものである。

証拠の標目(略)

法律の適用

判示第一(1)の所為 刑法第二百十一条(禁錮刑選択)同第一(2)の所為は道路交通取締法第七条第一項第二項第二号第九条第一項、第二十八条第一号(懲役刑選択)判示第二所為 同法第二十四条第一項第二十八条第一号、同法施行令第六十七条(懲役刑選択)併合加重 刑法第四十五条前段、第四十七条、第十条(判示第一(1)の罪の刑に法定加重)

訴訟費用負担 刑事訴訟法第百八十一条第一項

(以下略)

(裁判官 市川通雄)

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